TOPへ

月の郵便屋さん

  ウサギのナナは、つくえにむかって手紙を書いていました。今夜は、まちにまった満月です。

「月の郵便屋さん」が来る日なのです。
 
 ナナは、ずっと前から月にいるウサギと話がしたいと思っていました。ナナは月にすむウサギにちょっぴり恋をしていたのです。でも、ナナのすむ地球と月は、ためいきがでるくらいとおくはなれています。気持ちをつたえることなんてできません。ナナの想いはつのるばかりでした。
 
 ある日のこと、ナナは村の長老ウサギにいいことを聞きました。
 それは、満月の夜にあらわれる「月の郵便屋さん」のことでした。
 
 月の郵便屋さんは、満月の夜にだけあらわれて、月へと手紙をおくりとどけてくれるのです。家の郵便うけに、ことづけものをいれて、青いハンカチをつるしておくことがめじるしでした。
 
 窓のむこうには、大きな満月がかがやいていました。ナナは手紙を書き終えました。
「よしっ、できた」
 ナナは書き終えた手紙を読み直してみました。
 
『月にすむウサギさんへ
  はじめまして。私はナナ、あなたのすがたをいつもながめてるのよ。ずっと前からお話ししたいと想っていたの。でも、月と地球はとおすぎて・・・。
 そんな時に、月の郵便屋さんがいることを知って、思い切って手紙を書いてみました。
 私と友達になってほしいの。ナナはいつかあなたに会ってみたい。

 

    ナナより』  
 
 ナナは庭先のポストに手紙を入れて、青いハンカチをつるしました。いつになったら郵便屋さんがあらわれるのでしょうか。ナナはドキドキしてまっていました。
 
 月が一番高くなったころでした。夜空から一羽のフクロウがあらわれました。
「ことづけものを集めに来ました」
 フクロウは郵便屋さんの袋を首からぶらさげていました。
「えっ、もしかして月の郵便屋さんってフクロウさんだったの? 」
「じつはそうなんだ、僕は夜が好きだから、この仕事をえらんだんだ」
「そうだったんだ、大変ね。どうしたら月の郵便屋さんになれるの」
「十年に一回テストがあるんだよ」
「私でもなれる? 」
「テストに合格したらね。あっ、今夜はゆっくり話ができないんだ、まだたくさん回らないといけないし」
「ごめん、じゃあこの手紙をことづけてね」
 ナナは手紙をフクロウに手渡しました。
「まかせて、かならずことづけるよ」
 フクロウは、そういいのこし、夜の中へと消えていきました。
 ナナはしばらく満月をながめていました。月のウサギさんは、手紙をちゃんと読んでくれるのでしょうか、ナナは少し不安でした。
「あと一ヶ月か・・・長いな」
 ナナはつぶやいて部屋へと戻っていきました。
 
 一ヶ月なんかあっというまでした。あの日からナナは毎夜、月をながめていたのです。
月が大きくなるたびに、ナナの期待はふくらんでいました。
 今夜は満月です。ナナは早めに食事をすませて、窓から満月をながめていました。さっきまで雲にかくれていた満月が、いまはくっきりとすがたをあらわしています。もうすぐ、月の郵便屋さんがあらわれるはずです。
 
 ナナは庭先にでていきました。郵便うけのそばでナナは待っていました。しばらくすると夜空から、郵便袋をぶらさげたフクロウがあらわれました。
「郵便をことづけにきました」
「ごくろうさん、ずっと待っていたのよ」
「ナナちゃん、月のウサギさんから手紙が来てるよ」
「やった! 本当は心配していたの」
「そうかい、あっ、こんなところで話してるひまがないんだ、じゃあね」
 フクロウは、そういいのこし、夜の中へと消えていきました。
 
 ナナはさっそく手紙を読むことにしました。ふうとうの消印には、日づけと、その上には「つき」と押されてありました。日づけは二週間ほど前の、新月の夜のものでした。ナナはていねいにふうを開け、手紙を読み始めました。
 
『 ナナさんへ                                
   手紙をありがとう、とてもうれしかったです。僕の名前はジローといいます。いつもナナさんが月をながめていることを知っていました。
 僕は月でいつもおもちをついています。月にはかぐや姫様がいて、僕はおつかえしているのです。お姫様は、地球にいたころに食べたおもちの味がわすれられないのです。お姫様のさびしさを少しでなくすために僕はおもちをついているのです。それが僕の使命なのです。
 だけど、月が見えない新月にだけお休みをもらうことがゆるされています。今日は新月なので手紙を書くことができました。
 またお返事をください。楽しみに待っています。
 
 ジローより』
 
 ナナは驚きました。、月のウサギのジローが自分のことを知っていたのです。ナナは夜空にかがやく満月を見上げました。もしかするとジローがおもちをつきながらこちらをながめているかもしれません。そう思うとなんだか胸があつくなってきました。
「必ず、お返事を出すからね」
 ナナはとおくのジローに向かっていいました。
 
 ナナには新しい大きな夢ができました。それはいつか大きくなったら、月の郵便屋さんになることでした。そうすればジローと出会うことができるのです。
 
 ふたたび満月になるのは、まだまだ先です。でもナナは長い時間には思えませんでした。まいばん、月をながめるとジローがそこにいるのですから。そしてジローもおもちをつきながらナナのことをきっと見ていることでしょう。
 
おわり