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ひろしくんの懐中時計

   ひろしくんには、宝物がありました。それは、砂浜でひろった古い懐中時計でした。まだ動いていた時計は、すぐに、ひろしくんの宝物になりました。ひろしくんのズボンのポケットには、いつも、その懐中時計が入っていました。時計はひろしくんのそばでずっと時をきざんでいました。

 
 ある日のこと、ひろしくんは、時計のはりが止まっていることに気づきました。これは一大事です。ひろしくんは、近くの時計屋さんへと走りました。
 
 「おじさん、こんにちは」
「いらっしゃい、ひろしくん、今日は一人かい」
 ひろしくんは、時計屋のおじさんとは、かおみしりでした。
「うん、ちょっとお願いがあって」
「どんなお願いだい」
おじさんは、少しはげ上がったおでこをなでながらいいました。
「宝物の時計が止まってしまったんだ。」
「どれどれ」
おじさんはその時計をまじまじとながめていました。
「古いけどいい懐中時計だなぁ」
「砂浜でひろったんだ」
「ほう」
「ねぇ、おじさん、直せる」
「そんなのおやすいことさ」
 おじさんはお店のおくのいすに座って、カチャカチャと時計を直し始めました。ひろしくんは、その様子を心配そうに見ていました。
「よしっ、これでできたぞ」
 さすがに時計屋さん、あっというまに直してしまいました。おじさんは、直した時計をひろしくんに渡しました。時計は、もとどおり、元気よく動いていました。
「ありがとう」
「おじさんもだてに30年やってないぞ、お金はサービスしとくよ」
「いいの? 」
「君んちはおとくいさんだからね」
「じぁね」
 
 ひろしくんは、店を出ると公園へ向かいました。時計を見るとまだ3時半でした。夕飯まで公園でたっぷりと遊ぶことができます。
 ひろしくんは公園につくと、砂場で遊び始めました。
 しばらくすると、
「ひろしくん、もうすぐ夕飯よ。帰っておいで」
お母さんがむかえにきました。
「あれっ、もう夕飯? まだまだ時間あるよ」
「何いってるの? もう5時半よ」
「うそっ」
ひろしくんは、時計を見ました。お母さんのいうように、時計は5時半ちかくをさしていました。
「ほんとうだ! 」
 まだ公園に来てから、10分ぐらいしかたっていない気がします。ひろしくんは不思議に思いながらも、うちへと帰りました。
 
 「ごちそうさま」
 ひろしくんは夕飯が終わって、部屋へとあがってマンガを読み始めました。
 10分ほどたつと、
「ひろしくん、お風呂の時間よ」
お母さんの声がしました。
「まだ早いって。いま食べたところだよ」
「何いってるの、もう9時前よ」
「うそっ」
ひろしくんは、時計を見ました。お母さんのいうように時計は9時前をさしていました。
 
 「なんか変だよなぁ」
 ひろしくんは、体を洗っていました。するとまたお母さんの声がしました。
「ひろしくん、いつまで入ってるの、のぼせるわよ」
「あれぇ、いま入ったところなのに」
「だってもう10時よ、変な子ね」
 ひろしくんは、パジャマを着ながら思いました。
時間のすすみ方がおかしくなっているよ。                   
 
 ひろしくんは、ベッドに入りました。
「おかしいなぁ」
もしかしてつかれているのかもしれません。ひろしくんは布団を頭までかぶりました。
「はやくねよ」
ひろしくんは すぐに眠り始めました。
 
 「ひろしくん、もう起きないとだめよ」
とおくでお母さんの声が聞こえました。
「うーん・・・」
 ひろしくんは目を覚ましました。カーテンのすきまから光がさしこんでいました。時計はもう7時をさしていました。
「えっ、もう朝? 」
どう考えてもさっき寝たところのような気がしました。
「おかしい、おかしいよ、ぜったいに」
 きのう、時計を直してからでした。時間が速くながれているのです。きっと時計に問題があるに違いありません。
 
 ひろしくんは朝食をすませると、すぐに時計屋へと走りました。
 朝が早いので、時計屋は、まだしまっていました。
「おじさーん、おじさーん」
ひろしくんは、入り口からおじさんをよびました。
「ひろしくん、こんなに朝早くどうしたんだい」
「大変なんだ、きのうから時間が速くながれてるんだよ」
「どういう意味だい? 」
「すぐに食事になったと思ったら、寝る時間が来て、すぐ朝が来て・・・。」
「ふーん、そうかぁ」
「そうだよ、時計を見てよ」
「どれどれ」
おじさんは、ひろしくんの時計を手にとって、まじまじとながめました。
「あっ、しまった」
おじさんは急にお店のすみっこにいって、時計をさわりはじめました。
「おじさん、どうしたの」
「ごめん、おじさん、大変なミスをしてしまったよ」
「いったいどうしたの?」
ひろしくんは心配そうにのぞき込みました。
「長いはりと短いはりをまちがえてつけていたんだよ」
おじさんは少しはずかしそうにいいました。
「あっそうか、だから時間が速くなっていたんだ」
「そういうこと・・・よしっ、これで大丈夫」
おじさんは、ひろしくんに時計をわたしました。時計はもとどおりに動いていました。
「よかった、じゃあね、おじさん」
「おうっ」
 
 ひろしくんは、時計屋をあとにしました。
 昼ご飯まで、時間は十分です。ひろしくんは公園で遊ぼうと思いました。そして時計をポケットへと入れました。
 
 時間はふつうどおりに流れています。だけど、ひろしくんは、なぜか今日はいつもよりたくさん時間あるような、そんな気がするのでした。
 
おわり