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 七色のプレゼント

 
 裕太は、とまどっていました。何一つわからないまま、この日をむかえてしまったのです。裕太は大きなため息をつくと、またソファに横たわりました。その手には一通の手紙がにぎられていました。
 
 先週のこと。裕太あてに、差出人のない手紙が送られてきました。中には、一枚の小さな便せんが入っていました。
『裕太くんへ 今まで本当にありがとう。楽しかったよ。来週の日曜日にはお別れだから、その日に君に会えるといいな。それじゃ、待っているから。さようなら。 君の友達より』
 裕太は何のことかさっぱりわかりませんでした。友達やクラスの子に引っ越しをする子はいません。思い当たるふしがないのでした。
 ママに相談すると、
「どこの誰だかわからないわね。最近、ぶっそうな世の中だから、あまり相手にしない方がいいわ。わかった」
と注意されました。
 裕太には、とてもそんな風には思えませんでした。心を込めて書かれているように思えるのでした。
 
 今日がお別れの日です。だれかか待っているとしたら、きっとさみしい思いをするはずです。裕太は、朝からそのことばかり気にしていました。たとえ会いに行こうと思っても、名前も場所もわからないのです。あきらめるほかありませんでした。
 
 午後になり、気分てんかんに公園へ遊びに行くことにしました。家にいたら、手紙のことばかり考えてしまいそうです。
 裕太はスケッチブックを片手に家を出ました。
 裕太はデッサンするのがとても好きで、どこに行ってもスケッチブックを持っていました。
 健作や省吾は来ているのかなぁ、と思いながら公園につきました。公園には、小さい子やその親たちがたくさんいました。裕太の知っている人はだれもいませんでした。
 裕太は砂場近くの木のそばにすわり、スケッチブックを開きました。
 裕太は一人でいる時は、いつもここでデッサンをしていました。正面に見える噴水は、よく描きました。同じ噴水でも、光の当たりぐあいなどで、いろいろな表情があるように思えるのでした。
 噴水の中では、下着姿の小さい子たちが、楽しそうにはしゃいでいました。
 裕太は、その光景をていねいにデッサンしていきました。描き始めると、すぐに時間がたっていきます。やがて半分ほど描き上げた時でした。水に光があたり、小さな虹がうかびあがってきました。
 裕太は、色鉛筆を持っていませんでした。でも、どうしても虹を描きたいと思いました。 裕太はスケッチブックをおいて、家まで取りに帰ることにしました。
 
 家に帰ってまもなく、夕立が降り始めました。ものすごい雨音です。あまりにも強い降りで、外に出ることができませんでした。
 仕方なく、夕立が去るまで待つことにしました。でも、いっこうにおさまらず、夕食時になってしまいました。
「困ったなぁ」
「夕食が終わったら、お父さんにつれて行ってもらいなさい」
 外ばかりながめる裕太に、ママがいいました。
「そうするよ」
 裕太は、いつもより少し早めに食事をすませました。
 
 やがて雨もやみ、そろそろ行こうかとお父さんが立ち上がった時でした。
 玄関のチャイムが鳴りました。ママが走っていくと、すぐに裕太が呼ばれました。
 そこには、作業服を着た工事のおじさんが立っていました。おじさんは手の甲で汗をぬぐいながらいいました。
「裕太君だね。このスケッチブックは君のだね? 工事の時に見つけてさ。じゃ、失礼します」
 おじさんは、裕太にスケッチブックを渡すと、すぐに帰っていきました。
「夕立だったから今から工事だって。大変ね。」
「うん、そうだね」
 裕太は、スケッチブックを開いてみました。すると、最後のページにメッセージを見つけました。
「来てくれてありがとう。砂場を広くするためにまもなく切られます。君の絵をいつも楽しみにしてたよ。お礼にささやかなプレゼントをします。さよなら。 公園の木より」
 裕太はおどろいて、すぐにお昼に描きかけていたページに戻りました。
 その噴水の絵には、描けなかった七色の小さな虹がつけ加えられていたのでした。
 
おわり