雷様が体の調子を悪くして入院することになりました。
そのあいだ、息子に仕事をまかせることにしました。しかし、これがねっからのどら息子で、あきれるほどのなまけものなのです。
雷様は、少し不安でしたが、ほかにたのめるものもいません。気になりながらも、病院へと行きました。
一ヶ月後、雷様の不安はあたったようです。
どら息子は仕事をさぼってばかりです。
やることといえば、しゅみのつりばかりです。おかげで何日も雨が降っていません。
今日も、どら息子は、仕事をさぼってつりばかりしていました。
つりといっても、住んでいるのは雲の上なので、地上とはわけがちがいます。海と空はすごくはなれているのです。
どら息子は、海までとどくほどの長いつり糸を降ろしはじめました。つり糸は雲をつきぬけ、するすると降りていきました。いくつもの雲をつきぬけ、カモメたちのそばを通り、長い時間かかってつり糸が海の中へと入りました。
どら息子は、さおをにぎり、魚がかかるのをまっていました。
やがて、さおが反応しました。
ピクッ
「あっ、かかった」
どら息子は、いそいでつり糸をひきあげはじめました。
さおのさきが大きくふるえています。でも長いつり糸なので、ちょっとやそっとじゃあがってきません。どら息子はひっしです。
そのころ、カラスが数羽、海の上をとんでいました。
「おい、魚がとんでるぞ」
一羽のカラスがいいました。
「いや、とんでるというよりういてるぞ」
「何で魚がこんなところにいるんだ」
目の前には、りっぱな魚がういていました。三羽とも首をかしげました。
「いや、ういているんじゃなくて、上からひっぱられているんだよ」
よく見ると、魚はつり糸にひっかかっていました。
「何かよくわからないけど、おれ、はらぺこだよ。いいから食べてしまおうぜ」
カラスたちは、わき目もふらずに魚をつつきはじめました。魚は、あっというまにホネだけになってしまいました。
どら息子が魚をひきあげていると、つり糸が急に軽くなりました。つり糸がするするとあがっていきます。
「なんだこれ」
つりあげたのは魚ではなく、魚のホネでした。
くやしく思ったどら息子は、またつり糸をおろしました。
しばらくすると、また何かが、かかりました。
「よおし、こんどこそ」
どら息子は、やる気まんまんで、つり糸をひきあげはじめました。しかし、つれたのは、また魚のホネでした。
さっきのカラスたちは、まだ同じところにいました。
「おい、みんな、また魚だぞ」
「あっ、ほんとうだ」
「よし、また食べてしまおう」
カラスたちは、ふたたび魚をつつきはじめました。
それからもつぎからつぎへと、おもしろいほど魚があがってきます。
カラスたちは、調子にのって、すべての魚をたいらげていきました。
どら息子は、なんどもちょうせんしましたが、つりあがるのは魚のホネばかりでした。
「いったいどうなっているんだ」
雲のしたをのぞいたけれど何も見えません。
なっとくのいかないどら息子は、それからもむちゅうでつりをしました。
三羽のカラスたちは、今日も同じところにあつまっていました。
「楽だよなぁ、もうえさにこまらなくていいし」
「そうだよなぁ、おっまた魚だ」
三羽のカラスは、魚にとびつきました。
カラスたちは毎日、この場所に来ては、魚ばかり食べていました。
「ところで最近、雨の降るけはいがないよなぁ」
「雷様、さぼってるんじゃないのか」
「まじめにやってほしいな」
カラスたちは空を見あげました。
「まぁ、いいや」
ふたたびカラスたちは、魚にかぶりつきました。
気がついたときには、雲のうえにたくさんの魚のホネがちらばっていました。
「あぁ、こんなにホネが・・・」
どら息子は、ちらかったホネの前で考えこんでいました。雲のうえは、ホネばかりでせまくなってしまいました。このままにしておくと、ねるところさえなくなってしまいます。
「そうだ」
どら息子は、ホネをこまかくくだきました。そして、ゴミ箱の中につめこみました。こまかくすると、思ったよりたくさんのホネがゴミ箱にはいりました。これで少し広くなりました。
どら息子は、やすむまもなく、また、つりをはじめました。しかし、つれるのは、あいかわらず魚のホネばかりです。
やがて、雲の上には魚のホネの入ったゴミ箱が、いくつもならんでいきました。
さすがのどら息子も、こうホネばかりではたまりません。
「やってられないなぁ」
魚つりがだんだんとばからしくなってきました。
「やぁめた」
どら息子は魚つりの道具をうしろにほうりなげました。道具はならんでいるゴミ箱にあたりました。
そのときです、
ミシッ、ミシッ
雲がきしみはじめました。
「あれっ、何の音だ」
どら息子がふりかえると、
グラ、グラァ
雲が大きくゆれはじめました。
どら息子は、おおあわてです。
ドバーン
大きな音とともに雲のそこがぬけてしまいました。ゴミ箱のあまりの重みにたえられなくなったのです。
そして、ホネのはへんがバラバラッと落ちていきました。ホネは雪のように、地上へと降りそそぎ、海も陸もあっというまにまっ白になってしまいました。
「めずらしいなぁ、ひょうだ」
空をまう鳥たちや陸の動物たちは、ひょうだと思って大さわぎです。
海の魚たちもさわいでいました。
「ひょうだぞぉ」
自分たちのホネだなんてまったくおもってもいません。
ホネは、もちろんあのカラスたちにも降りそそぎました。
「おい、ひょうがふってきたぞ」
「ほんとだ、最近、何も降ってなかったからなぁ」
「やっとふったのがひょうだなんてな」
黒いカラスたちもまっ白です。
「あーっ、なんてことに」
どら息子は、ぽっかりと空いた穴からしたをのぞきこみました。
「おまえは何をやっているんだ」
そのとき、雷様のきびしいこえがしました。
「とうちゃん、ゆるして」
「心配になって帰ってきたらこのありさまか、まじめにしごとしろっ」
雷様はカンカンです。
まもなく雲が黒くなりはじめました。そして、強い風がふきあれ、はげしい雨が降りだしました。まるで、あらしのようです。あまりの風と雨に、降りつもったホネは、どこかへふきとばされてしまいました。
ゴロゴロ、ピカッ、ドカーン
雷様は、息子にとびきりおおきい雷を落としました。
「おい、ひょうのつぎはすごい雨だ」
カラスたちは、近くの島の木ににげこみました。
「いったいどうなってんだ」
ひょうが降ったり、あらしになったり、カラスたちはわけがわかりません。
「最近、不思議なことばかりだよなぁ」
三羽とも首をかしげました。
あのあらしいらい、カラスたちの前には、魚があらわれなくなりました。
「さっぱり魚がこなくなったよな」
一羽のカラスがつまらなそうにいいました。
「まだかなぁ」
「おなかすいたよ」
ほかの二羽もつまらなそうです。
カラスたちは海と空をなかめては、魚があらわれるのを、ずっとまっているのでした。
終わり