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フクロウの涙

 
  その村には、いいつたえがありました。
 森のおくふかくには、村の守り神の、年老いたフクロウがすんでいて、そのフクロウの涙をみたものは、願いことをかなえることかできるというのでした。
 しかし、いまだにその涙を見たものはいませんでした。
 
 ある日のこと、とおい街からヨセフという男がやってきました。
 ヨセフは、その街ではとても有名なお金もちでした。
 お金と名声を手にいれてしまったヨセフには、毎日がたいくつでしかたありませんでした。
 そんなとき、フクロウのうわさを耳にしたのでした。
 
 ヨセフは、「永遠の幸福」という願いをかなえたいとおもいました。
 さっそく、数日分の食料と武器をもち、家来をしたがえて村へとやってきたのでした。
 ヨセフは、村の長老にフクロウの涙についておしえるようにいいました。
 長老は、
「森にすむフクロウは、村の守り神です。フクロウにむやみにちかよってはいけません」
といいました。
「いわないといたいめにあうぞ」
 ヨセフは、いらついて長老をおどしました。
「村のおきてですからむりです」
 いくらといただしても、長老はなにもかたりませんでした。
 ヨセフは、自分のためなら人の命などへいきでうばう、つめたい男でした。
 気に入らないヨセフは、とうとう長老を殺してしまいました。
 そして、悲しみにくれる村人たちを武器でおどして、フクロウのすむ森への行き先をききだしました。
 
 フクロウがすむ森は山ふかく、たどりついたときにはすでに日がくれていました。
 フクロウは、小さな池のほとりにすんでいました。
 池は、すきとおった水をたたえ、あたりは人をよせつけないほどの静けさにつつまれていました。
 フクロウは、いつも池のそばのカツラの木にとまっていました。
 その顔は年老いていましたが、目はするどさをもち、まるで世の中のすべてをみすかしているようでした。
 ヨセフは、木立のあいだからフクロウのすがたをみていました。
「これだけりっぱなフクロウの涙となると、不思議な力があるのもわかるぞ」
 ヨセフは、ますますきょうみをもちました。
 
 フクロウは、昼間は眠り、夜になると目をさましました。
 ヨセフもおなじように、昼間は眠り、夜になるとおきて、フクロウが涙をながすのをいまかいまかとまっていました。
 しかし、そうかんたんにフクロウが涙をながすはずがありませんでした。
 やがて食料もすくなくなりはじめ、ヨセフにあせりといらだちがみえてきました。
 しびれをきらしたヨセフは、むりにでも涙をながさせようと、フクロウに矢をはなちました。
 フクロウは、いたみにたえきれずに、ひとすじの涙をながしました。
「やったぞ」
 涙をみたヨセフは、よろこびのこえをあげました。
 
 いたみにくるしむフクロウをそのままに、ヨセフは村へともどってきました。
「おれは、永遠の幸福をてにいれたぞ」
 ヨセフは、とくいげにかたり英雄きどりでした。
 ヨセフは、へいきで人を殺すような男です。
 村人は、フクロウのことをしんばいしていました。
 
 永遠の幸福を手に入れたはずのヨセフは、まもなく原因のわからない熱病にかかってしまいました。
 熱はまったくさがらず、ヨセフは街にかえることさえできませんでした。
「なにがいいつたえだ! 」
 ヨセフは、いかりくるいました。
 そのようすを見て、村人たちは、きっとひどいことをされた守り神がばつをくだしたのだとおもいました。
 
 長老のむすこのマントルは、村人たちとそうだんして森にようすをみにいくことにしました。
 長老の死をいつまでもひきずってはいられません。
 マントルが村をひっぱっていかないといけないのです。
 
 森につくと、マントルはことばをうしないました。
 フクロウは、池のそばのカツラの木の下でうずくまっていました。
 肩には矢がふかくつきささり、血がにじんでいました。
 それは、とてもいたいたしいすがたでした。
「ひどいことを・・・」
 マントルは、フクロウをだきあげて、肩をふるわせ涙をながしました。
 マントルは、フクロウにささった矢をぬいて、傷口を池の水であらいながしました。
 そしてもってきた布をほうたいのかわりにまきました。
 
 マントルは、村につれてかえらずに、この場所でかんびょうすることにしました。
 守り神がすみかをかえるわけにはいかないのでした。
 それからというもの、マントルは、村から森までの長い道のりを毎日おうふくしました。
 池につけば、フクロウのほうたいをほどいて傷口をあらい、あたらしいほうたいをまきました。
 エサも朝昼夜と、一日に三回かかさずにあたえました。
 マントルのけんめいなかんびょうで、フクロウはすこしずつ元気をとりもどしていきました。
 やがてフクロウは、自分の力でカツラの木の枝まで飛ぶことができるようになりました。
 マントルに話をきき、村人たちもホッとむねをなでおろしました。
 
 ある日のこと、かんびょうがおわってかえろうとしたマントルは、けはいをかんじてカツラの木の方をふりかえりました。
 すると、おどろいたことにフクロウの目から涙がながれていたのです。
 涙は、宝石のようにキラキラとかがやいていました。
「なんて美しいんだ」
 マントルは、涙の美しさにしばらく立ちすくんでいました。
「なぜだろう、悲しいのだろうか」
 マントルには、涙の理由がわかりませんでした。
 
 しばらくして、マントルの心の中で、だれかがかたりかけてきました。
「マントルよ、おまえは毎日まごころをこめてかんびょうしてくれた。ありがとう。おまえや村人はみな美しい心をもっている。これからも森を守ってくれ」
 マントルは、フクロウがうったえるように自分の目を見ていることにきづきました。
 その声は、フクロウのものにちがいありませんでした。
「マントル、涙は悲しいからではない、うれしいからだ。おまえの願いはなんだ、かなえてやる」
 マントルは、フクロウのことばにたいして、こえにだしてこたえました。
「わたしの願いは、父を生きかえらせていただきたいのです。そしてヨセフをゆるしてあげてほしいのです」
 すると、フクロウはとつぜん翼を大きく広げ、カツラの木の枝からとびたちました。
 フクロウは、マントルの頭の上を回り、そのまままっくらな夜空へと消えていきました。
 
 村にかえると、長老が生きかえったと、村中おおさわぎでした。
 フクロウは、マントルの願いをかなえてくれたのでした。
 マントルと長老は、かたくだきあいました。
 長老は、涙をながしてよろこぶマントルに、
「マントルよ、わたしがいなくてもよくやってくれた・・・れいをいう、これからおまえが村をひっぱっていきなさい」
といいました。
 長老は、マントルに、ちかくそのやくめをゆずることにしたのでした。
「ヨセフは、いったい・・・」
 マントルがそういいかけたとき、ヨセフがあらわれました。
 ヨセフは、すこしはやせていましたが、しっかりとした足どりで歩いていました。
 いっこうに下がらなかった熱は、うそのように下がったのです。
 病がなおったヨセフは、
「ここには、もう二度とこない」
といってにもつもそのままに、家来をつれてそそくさと村をでていってしまいました。
 
 村にはふたたび、平和がおとずれました。
 マントルは長老にいいました。
「長老、わたしはフクロウのよろこびの涙を見ました。それはとても美しいものでした。いいつたえの涙とは、よろこびの涙だったのですね」
「そうかもしれない」
そういって二人ははるか森のほうをふりかえったのでした。
 
 おわり