大根はいつも土の中にいます。
たまには外の空気をすいたいと思います。
いちど葉とぎゃくになろうかと考えたこともあります。でも大根というのは、大きい根っことかきます。だから、根っこが土の外にあったら大根とはいえません。
それはムリなことでした。
ある夏の日、大根は、とうとう土の中がイヤになってしまいました。
大根は、思いきって土の外にでました。そして、畑のよこをとおりがかった少女のかばんにとびこみました。少女は気づかずに、バスへとのりました。
バスは一時間ほど走り、すなはまのそばでとまりました。
少女は海水よくにきたのでした。
大根は、いままで海水よくにいったことがありません。それどころか海を見たことさえなかったのです。
大根はドキドキしてきました。
少女がおりると、大根はかばんからとびだしました。
目の前には、青くて大きい海がひろがっていました。
きゅうくつな生活をおくっている大根は、その大きさにおどろきました。
白いすなはま、うちよせるなみ、カラフルなビーチパラソル。
すべてがはじめてみるものでした。
すなはまは、畑とちがい、けっこうあついです。大根ようのビーチサンダルなど、あるわけがなく、大根は、とびはねながらなみうちぎわまでいきました。
だいどころの水にしかつかったことがない大根は、おそるおそる海の中に入りました。 海は水よりよくうきました。
大根は、なみにみをまかせてみました。しばらく、ゆらゆらとういていると、あまりのきもちよさに少しいねむりをしてしまいました。
海にくることは、もうないかもしれません。大根は、気がすむまで海をまんきつしようと思いました。
大根は、海の家でやさいなかまのトウモロコシを見つけました。こんなところでトウモロコシに会うなんて思いませんでした。でもトウモロコシは海水よくを楽しんでいるようすはありません。あみの上で、たれをたっぷりかけられてやかれていたのです。すごくこうばしいにおいがしていました。
海にきている人たちは、おいしそうにトウモロコシを食べていました。せっかく海にきても食べられるなんて、少しかわいそうです。でも、大根は自分が大根でよかったとつくづく思うのでした。
すなはまでくつろいでいると、一ぴきのヤドカリがちかづいてきました。
「見ない顔だなぁ、きみ」
「大根っていうんだ。海はいいねぇ」
「大根? 聞いたことがないな、ぼく、ヤドカリっていうんだけど知ってる?」
「ヤドカリ? 聞いたことがないな」
「ぼくを知らないで海になんてよくくるよな。きみはどこにすんでるの?」
「きゅうくつな土の中だよ。でもイヤになっちゃって・・・」
「きゅうくつ? まだましだよ。ぼくなんかかいがらの中だよ。でもまんぞくしてるよ」
「どうして?」
「ぼくもたまにかいがらからでるときがあるけど、せなかがスースーして、けっきょくさみしくなっちゃうんだよな。ぼくはかいがらの中があっているんだ」
大根は、少しかんがえこんでしまいました。
「土の中もいいと思うけどね。それじゃ、ぼくはいそがしいから」
そういいのこし、ヤドカリはどこかにいってしまいました。
大根は、ヤドカリの話をきいて、少しだけ畑がこいしくなりました。
気がつくと、もう夕方になっていました。少女がかえりはじめたので、大根は、いそいでかばんにとびこみました。
バスが動きだしました。
大根は、なごりおしそうに海をながめました。
とりのこされたビーチパラソルがさみしそうでした。すなはまからは、ヤドカリが手をふっていました。
少女も大根もつかれたのか、バスの中でねむってしまいました。
畑にかえったときには、すっかり日がくれていました。
土の中で、大根は、ヤドカリのことばを思い出しました。
なんだかんだいっても土の中のほうがおちつきます。きっと、じぶんは土の中があっている、そんな気がしました。
大根は、これからも畑で生きていくことにしました。
あくる日、のうかのおじさんが畑にやってきました。どうやら大根をぬきにきたようです。
のうかのおじさんは、土の中からぬいた大根をみて、こしをぬかしてしまいました。
そこには、どうみても大根にみえない、まっ黒にひやけした大根があったのでした。
おわり